ぐるぐる動く不思議な油絵

油絵を鑑賞しようと足を止めたら、絵が動き出した?
思わず「どういうこと?」と言いたくなるような不思議なアートがtwitterで話題となっている。

アナログとデジタル、ひいては、油絵とディスプレイの融合を図っています。
別テーマとして、ゲームのように誰もが手軽に体験できる感動を作りたいと思っていました。たくさんの人が驚いてくれてニヤニヤ

 

それが、多摩美術大学・統合デザイン学科に在籍する藤岡真祈(@maki_togo)さんが作った『回転する静物画』という作品。

テーブルの上に剥製のカモやガラス製のボトル・りんご・テーブルクロスが配置された油絵だが、作品が展示されているスペースの前には踏み台があり、その踏み台に乗ったとたん、絵がぐるぐると横回転し始めるのだ!

一見普通の静物画が…
一見普通の静物画が…
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ぐるぐると360度回転!
ぐるぐると360度回転!

踏み台から降りると絵は回転をやめ、元の静物画に戻ってしまった……まるで魔法のようなこの作品に、SNSでは「新鮮な体験!」「ハリー・ポッターの世界に迷い込んだかのよう」と驚きの声が続々。
一見普通の油絵にしか見えないこの作品、一体どういう仕組みになっているのだろうか…早速、作者の藤岡さんにお話を聞いた。

45枚の油絵のコマ撮りアニメ

――ずばり、この作品の仕組みは?

踏み台に乗ったら映像が再生するという、とても単純なものです。人が踏み台に乗ったその重さでスイッチが押され、その間コマ撮りアニメーションが再生されます。踏み台から降りるとスイッチがオフになり、降りたときの絵で一時停止します。


――何枚の油絵を使っている?

45枚です。具体的なアイデアが決まってからの製作期間は約3ヶ月です。それまで約半年間は油絵とデジタルをいかに融合させるかを模索していました。

踏み台の構造
踏み台の構造

――こだわった点はどこ?

ディスプレイ感をなるべく消すためにこだわった点でいうと、まず適切なモニター選びです。高い解像度で映せる他、なるべく反射せずマットな質感をもつモニターが必要で、大学から貸し出しているものでは不十分でしたので、自分で吟味して購入しました。

あとは、油絵を撮影した際のライティングと展示会場でのライティングを一致させています。「天井から強い光を当たっている」と意識しながら原画を撮影し、展示会場で見えた時の違和感を減らします。

そして油絵自体に強いマチエール(編集部注:材質の効果)の部分(背景とテーブルクロス)を作ることで、強い光が当てられると僅かに画面に絵の具の凹凸の影ができます。その絵をディスプレイに映すと「展示会場の照明が油絵に影をもたらしている」と見えてきます。結果、映像でも立体的に見ることができます。

気になる仕組みだが、額縁にはめこまれたキャンバスに見える部分は実はディスプレイ。
角度を変えて描いた45枚の油絵を撮影して動画にし、足元のボタンを押すことで再生しているのだという。

“ディスプレイ感”を消すために、よりキャンバスのように見えるモニターを選んだり、実際に展示されるときの照明効果を考えた撮影方法、また油絵特有の絵の具の盛り上がりを作ることで、平らなディスプレイでも本物の油絵に見える工夫をしたという。
 

「誰でも手軽に感動体験ができる」作品を作りたい

――これまでにもこのような仕掛けのある作品は作ってきた?

油絵を使って人を騙すような仕掛けを作ったのはこれが初めてです。
絵は絵として描き、仕掛けというか、インタラクションの要素を含む作品はCGを用いていました。

『BloB』
『BloB』

今回のような油絵を使った“仕掛け作品”は初めて制作したという藤岡さん。普段からCGを用いた作品などを手掛けており、これまでには「新しい描画手法を制作し提案する」という学校の課題で、画面上の球体に別の球体をくっつけて「柔らかい建築」を作る『BloB』などを発表してきたという。

こちらはアクリルガッシュ作品
こちらはアクリルガッシュ作品

――『回転する静物画』には大きな反響がありましたが…

自分にとってこの作品は自己満足みたいなところがあって、油絵が動くところを私が見たいがために作ったようなものなんです。それが大学内の展示会場に留まらず、画質の問題があるにも関わらずSNSでもこんなに反響があるなんて大袈裟ですが夢のようです。誰かの心に少しでも長く残ってくれたらいいなと思います。


――今後作りたい作品は?

この作品のもう一つのテーマに「ゲームのように誰でも手軽に感動体験ができる」があります。これは私がゲームというアートメディアに強い魅力を感じているからこそ掲げ続けていたテーマなのですが、今後はゲームのようなものではなく、ゲーム自体を作りたいです。

そのために勉強しなければならない基礎的なことは山ほどありますが、そんな中でも大学4年間、なにより卒業制作で作った本作品に表れているであろう私の作品にしかない魅力を忘れないようにしたいです。


アナログとデジタルが融合した、不思議なアート作品。
これからも、見た人が思わず足を止めてしまうような作品が生まれることを期待したい。

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プライムオンライン編集部
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